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顔よりも巨大なアゴの少女 ― 病院船での感動手術ストーリー

顔よりも巨大なアゴの少女 ― 病院船での感動手術ストーリー

 

 フットボール大に膨れ上がった顎の巨大腫瘍――。なす術がないと思われた奇病が、世界最大の病院船で行なわれた手術で見事に治ったという感動のストーリーをお伝えしたい。

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■「善意のリレー」により手術が実現

 英紙「Mirror」の電子版によると、コンゴ民主共和国に住むグレースさん(17歳)は、10年前、アゴに違和感を覚えたことが全ての始まりだったと回述する。「最初は歯茎の小さな腫れだったんです。でも、それがだんだん大きくなってきて……」。

 腫瘍がかなり大きくなってきても、話すこと、食べることはなんとかできたグレースさんだった。だが、年ごろの女の子ゆえ、人目を避けるようになり、学校へは行けなくなってしまった。

「これはただごとではない」と、母親のクリスティーンさんは娘を地元病院へ連れて行ったが、医者は「原因不明で何もできない」と繰り返すだけ。母娘は一途の望みを頼りに首都キンシャサの病院へと向かう。だが、そこでは2回の切除手術に失敗、医者もサジを投げてしまった。

 だが、奇跡は起こった。

■牧師と運命の出会い

 2012年のある日、入院中のグレースさんは牧師のグレゴワール氏と運命の出会いを果たす。グレゴワール牧師はグレースさんの姿に、最初ものすごいショックを受けたというが、彼女の懸命な姿に動かされ、その後たびたび病院を見舞うようになったという。

 その年の夏、グレゴワール牧師はスイス在住のジャン・クロード牧師と知り合うことになる。スイスに戻ったクロード牧師はグレースさんのことを教会のサイトにアップしたところ、すぐにマーティンと名乗る人物からメールが届いた。実はマーティン氏、元「マーシー・シップス(下記に説明)」の乗組員で「『マーシー・シップス』ならグレースさんの手術も可能なのでは」とクロード牧師に「マーシー・シップス」のローザンヌ事務所へ連絡するよう勧めたのだ。通常、「マーシー・シップス」の手術台に乗れるのは、患者選考会を通過した患者だが、グレースさんの手術は、このみごとな「善意のリレー」により実現するに至ったのだ。

■最新鋭の病院船で2.キロの腫瘍摘出に成功

「マーシー・シップス」は1978年に米国キリスト教慈善団体により設立、運営されている最新設備を備えた巨大病院船だ。恵まれない国々を訪れ、白内障の手術や腫瘍の除去など無料で治療にあたっている。現在も約1,600人の医師や看護師たちが世界中から集まりボランティアとして活躍している。ちなみに、グレースさんが手術を受けた「アフリカ・マーシー」は、元々デンマークの鉄道フェリーだったものを改造した船だそうだ。

 CTスキャンの結果、フットボール大の腫瘍は「浸潤性骨腫瘍」で、本来であれば歯のエナメル質を形成する細胞だったことが判明。この腫瘍は、口内で大きくなると舌を喉の奥へ押しやるため呼吸ができなくなり、窒息死に至ることもあるという。まさに間一髪だった。

 2013年9月、グレースさんは2.2キロの腫瘍摘出に成功、一命を取りとめた。今後は差し歯を入れ、食べ物を噛むことができるようになれば「見た目も機能も普通の生活が送れるようになるだろう」と執刀したゲリー・パーカー主席外科医は話している。

 この手術でグレースさんの生活は一変したという。明るさを取り戻したグレースさんは今、看護師を目指して勉強中と語ってくれた。「将来は私も『マーシー・シップス』で働きたいの。みんなが私を助けてくれたように、私も苦しんでいる人を助けたいんです」とグレースさんは語る。

 ときとして、医療不信に陥ってしまうこともある現代の日本だが、こういう話を聞くたび「人間、まだまだ捨てたもんじゃない」と救われた気持ちになるのは筆者だけではないはずだ。
(文=佐藤Kay)