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ベンチャー投資は賭け? Box増資に遅れた日本勢

 ベンチャー投資は賭け? Box増資に遅れた日本勢

 

  • Box社のサイト
  •   1月に上場したストレージのBoxというベンチャーがあります。

      2年ほど前に書いたDropboxについてのコラム(「ストレージ、巨額増資続々」(2012年6月6日)で同社の競合として触れたこともあり、本社所在地は私の家から車で10分ほどのところ。シリコンバレーの会社の多くで福利厚生の一環となっている無料通勤バスもあり、GoogleやAppleなどでは社名も入れず無地のバスなのに比べ、しっかり車体にBoxと書いてあるのがなかなか刺激的です。

     

    増資のたびに減っていく投資益

     

      さてそのBoxですが、EquityZenという会社が上場までの増資の歴史をまとめた図をサイトで公開しています(https://equityzen.com/blog/box-path-to-ipo/)。「いつ増資したか、投資家は誰か、それぞれ上場時点でどれだけの投資益が出たか」がコンパクトにまとめられているのですが、それを見ると、増資は9回で、創業時の投資は49倍、それから3年後の2回目の投資は21倍に増えたことがわかります。3回目は11倍、4回目は4倍となかなか良い感じです。

      しかし以降の増資では減り始め、5回目は1.7倍、6回目は1.5倍、7回目は1.1倍にしかなっていません(図中では、投資益=100円が150円になったら50%、となっていますが、上記の倍数では100円が150円になったら1.5倍と書いています)。

      それぞれ上場までの経過時間が3.4年、3.3年、2.4年なので、1年あたりの利回り(IRR)を計算すると18%、14%、3%とベンチャーキャピタル投資としてはかなり残念な値になります。

      さらに、上場の15か月前に行われた8回目の増資では、なんとその増資時より上場時点での企業価値が下がってしまい、8回目の増資総額1億ドルは上場時には8000万ドル弱の価値しかなくなってしまいました。

      8回目の増資から5か月経(た)ったところでBoxは上場申請をしますがなかなか上場できません。株式市場全体の市況が安定していなかったという背景もあるのですが、Box自身まだ赤字だったという点も足を引っ張りました。そしてどんどん時間は過ぎ、上場申請から4か月後、Boxはやむなく1億5000万ドルを投資家から調達します。この増資は、8回目の増資よりさらに高値で行われるのですが、「上場申請中なのに上場できない」という会社側の苦境を反映して投資家側が有利な条件を盛り込んでおり、結果的に年利にすると20%を超す利回りで運用できた結果になっています。

     

    「損をした投資家」は日本など海外勢だけ!

     

      つまり、「損をした投資家」は8回目の増資に参加したところだけなのですが、ここで注目できるのがその内訳です。

      7社いるのですが、そのうちItochu Technology Ventures、Macnica、Mitsui Global Investmentの3社は日本、Digital Sky Technologiesはロシア、Telefonica Venturesはスペイン、と海外勢がたくさんいます。残りの2社はDraper FisherとBessemerで、これはシリコンバレーのベンチャーキャピタルなのですが、Draper Fisherは1回目から5回目の「儲(もう)かった増資」でも全て投資しており、Bessemerも4回目、5回目に投資しているので、トータルではちゃんと儲かっています。つまりトータルで損をしたのは海外勢だけ。そして残念ながら海外勢は初期の儲かった増資には全く参加していません。

      日本を含めた海外勢は、彼らが投資した当時すでに100億円規模の売り上げがあったBoxを見て「もうすぐ上場できる優良ベンチャー」と判断したのではないでしょうか。しかし、そうした「誰が見てもよさそうな未公開ベンチャー」には期待込みで実態以上の価値がついてしまうのが常です。実際その時の企業価値はのちの上場時より高値だったため、結果的に損してしまったわけです。

     

    大儲けしたかったら…

     

      というわけで、ベンチャー投資で大儲けしたかったら、まだ海のものとも山のものともつかないときから投資しないといけない、みんなに良さがわかってしまったらもう遅い、ということがBoxの9回の増資からはうかがわれるのです。